天然青森ヒバ

T ヒバの名称
 ヒバは、ヒノキ科アスナロ属に属し、アスナロ属の変種としてヒノキアスナロとアスナロに分類され、日本にだけ分布している。
 本県を中心とするヒノキアスナロは北方型、木曽地方を中心とするアスナロは南方型の二つに区分される。青森ヒバは、特にヒノキアスナロと呼ばれている。
 アスナロ属を植物学者が命名したのは、天保13年(1842年)に、シーボルトらによって木曽地方から採取されたものがアスナロと名づけられたのが初めてである。その後、明治34年(1901年)に、本多静六氏が青森地方から採取した標本を、牧野富太郎氏が、球果の形や色が違うことから、ヒノキアスナロと命名した。
 ヒノキアスナロやアスナロをいつ頃から「ヒバ」と呼んだかは、はっきりした記述はなく、東北森林管理局青森分局に保管されている文書では、明治41年の施業案説明書の中にヒバという名称が使用されている。東北森林管理局青森分局の「特定地域(ヒバ林)森林施業基本調査」によると、ヒバの呼び名は46種類に及ぶことが記載されている。
≪ヒバの異名≫
呼称 出典 呼称地方
アサナロ
新潟
アサホロウ
 〃
アサロウ
 〃
アス
兵庫
アスカベ
奈良、和歌山
アスカペ
   〃
アスダロ
北海道、荘内
アスナラ
島根
アスナラウ 枕草紙春曙抄、書言字考節用集、
本草一家言、伊豆海風土記、広益国産考
岡山、島根
アスナロ 和漢三方図会 東京
アスナロウヒバ 草木奇品家雅見  
アスハヒノキ 枕草紙、同春曙抄、書言字考節用集  
アスヒ 和漢三方図会、広益国産考
本草一家言、大和木徑
静岡、山梨、長野、
愛知、鳥取、大分、熊本
アスペロ
北海道
アテヒ 本草一家言、琉球産物志 富山、石川、福井、岐阜、
滋賀、京都、岡山、隠岐島
アテヒノキ 琉球産物志  
アテビ 本草一家言 佐渡ケ島、石川、京都、静岡
アラビ
北海道
イシッピ
栃木
イシピ
栃木、茨城
イタスギ
新潟
ウラジロジャバラ
佐賀
オニヒノキ 草木奇品家雅見  
オニヒバ
岩手(胆沢郡)
カラスギ
静岡
クガ
福島
クサマキ 和漢三方図会 岩手、宮城、山形、茨城、
新潟、福井、石川
クロクギ
静岡
サハラ
岩手、山形、栃木、群馬、
新潟、長崎、熊本、宮崎
サロウ
 
ジャバラ
大分
シラビ 大和木徑 岩手、宮城、栃木、静岡
シラベ 大和木徑 岩手、宮崎、栃木、静岡
シロビ
岩手、山形、栃木
ツガルヒノキ
秋田
ナロ
佐賀、長崎、熊本、宮崎
ナロウ
福岡、大分、宮崎
ヒヌキ
岩手、秋田
ヒノキ 津軽南部、仙台各藩、林制史資料
青森、岩手、秋田、宮城、山形、
栃木、茨城、群馬、北海道
ヒノキアスナロ 牧野富太郎氏が本種、北方型に
対して命名されたもの

ヒバ 飛州志、吉蘇志 静岡、長野
ボヤヒ
福岡、大分
ボヤビ
福岡、大分
マキ 和漢三方図会 北海道
ヤブトウシ
新潟

 

U ヒバの分布状況

1 国内の分布
 ヒバは、北は北海道南部の江差地方から、南は九州の大隈半島に至るまでわが国のほとんど全域にわたって分布している。しかし、地域的に最も多く分布しているのは本県で、現在でも全国の82%を占めていることから、古くから本県の代表的な樹種として知られ、秋田スギ、木曽ヒノキと共に日本三大美林のひとつに数えられている。
≪国有林のヒバ蓄積量≫    単位:千m
区分 全国 青森県 北海道 岩手県 群馬県 秋田県 その他
数量 15,255 12,528 738 571 344 338 736
割合 100.0 82.1 4.8 3.7 2.3 2.2 4.8
平成8年国有林野事業統計書(平成7年度)

≪アスナロ属の全国分布≫
区分 北限 南限 垂直分布
ヒノキ
アスナロ
(北方型)
北海道渡島半島見市川の
支流二股川上流付近北緯
42°10´
栃木県日光湯ノ湖付近
北緯36°47´
海抜高
青森県夏泊10mから
栃木県鬼怒沼山2100m
アスナロ
(南方型)
青森県内真部山国有林
穴川沢付近
北緯42°10´
鹿児島県高隈山国有林付近
北緯31°31´
海抜高
青森県内真部山250mから
栃木県鬼怒沼山2100m


2 県内の分布
県内では、津軽、下北半島の国有林に広く大量に分布しているが、その他に津軽森林管理署管内の弘前、深浦、大鰐の国有林、青森森林管理署管内の野内川上流一帯、それに近接する三八上北森林管理署管内の国有林にも分布している。
 ヒバは今から1万年以上も前に、県下で非常に多く繁茂していたといわれ、夏泊半島の基部で、今では針葉樹でヒバがまったく見られない地域でも、かつてはヒバが生えていたと言われている。また、東通村猿ケ森海岸砂丘地帯にはヒバ林の遺跡とも言うべき埋没林があり、ここは住持ヒバの大森林であったが、今から800〜1,000年前に埋もれたと言われている。

 

V ヒバの特徴

1 材質

(1)収縮率
 生材時から乾燥時に至る収縮率は、板目方向で8.4%、柾目方向で3.4%、体積で11.4%を示し、主要木材の中でおおむね中庸である。

(2)硬度
 ヒバ材は、カラマツ等と同様、比較的硬い。
≪主要木材の硬度≫
樹種 荷重
(kg)
含水率
(%)
気乾比重
(100倍)
ブリネル氏硬度
(kg/mm
ヒバ
カラマツ
アカマツ
スギ
ヒノキ
ベイマツ
ベイツガ
ブナ
 50
 50
 50
 50
 50
 50
 59
100
13.29
13.11
12.72
13.25
12.59
13.04
13.33
12.92
52.51
53.21
52.03
36.90
36.37
44.28
45.25
62.90
2.37〜3.11
2.05〜3.00
1.90〜2.71
1.42〜2.28
1.49〜2.16
1.71〜2.30
1.64〜2.33
3.19〜4.26
※直径10mmの標準鋼球を使用し、荷重は50kg
(3) 圧縮強度
 ヒバ材の圧縮強度は、ヒノキやカラマツより高い。
(4) 曲げの強さ(弾性係数)
 ヒバ材の曲げの強さ(弾性係数)は、モミ、アカマツ等と同様、中庸である。
(5) さけと割れ(剪断強度・割裂性)
 ヒバ材の剪断強度は中庸であり、繊維の方向に裂ける割裂性は、ヒノキなどととともに高い。
≪主要木材の比重及び弾性強度≫
機種 気乾比重
(100倍)
圧縮強度
(kg/cm
曲げ破壊係数
(kg/cm
曲げヤング係数
(10kg/cm
剪断強度
(kg/cm
ヒバ
カラマツ
アカマツ
スギ
ヒノキ
モミ
ブナ
41
48
49
38
41
44
53
418
411
400
368
412
401
426
698
758
695
582
744
636
910
 8.2
10.6
 8.0
 7.2
10.4
 8.3
11.6
51
47
59
48
60
49
78
参考資料:「青森のヒバ 青森森林管理局 青森分局 昭和45年」

2 耐朽性
 ヒバは、各種の木材腐朽菌に対する耐朽度が極めて強く、国内の建築用木材10種類の腐朽菌、ワタグサレタケに対する耐朽度の結果では、最も高いのがヒバで、ヒバに含まれるヒノキチオールとシャメールBが強い殺菌力を示すことが明らかにされている。

3 耐蟻性

 木造住宅の耐朽性を脅かすものにシロアリがあるが、宮崎大学農学部応用昆虫研究室の研究では、ヒバはヒノキチオールによってシロアリに最も強い建築材と言われている。


4 用途
(1) ヒバは主に建築材として利用されており、耐候性や耐蟻性などの耐朽性に優れていることから、建築物の土台など湿度の高い場所で用いられているほか、木目や木肌の美しさ、独特の香りがあることなどから柱や内・外装材料として広く利用されている。
 また一般住宅のほか、全国の神社・仏閣にも使用されており、青森市の青龍寺の本堂や五重塔、県外では平泉の中尊寺の金色堂などが代表的な例である。

(2) 最近は資源を有効に活用するという観点から、集成材への利用についても積極的に取り組まれており、無垢材よりも強度が増し、狂いが少なく、自由な長さや断面が得られることなどから、体育館などの大型の建築物に用いられている。
(3) 建築用以外では、津軽塗りの木地のほか、綿密な木目や色をそのまま活かした家具や建具、木工品等の材料としても利用されている。
 その他古くは枕木としても利用されていた。

(4) 小・中径木はこけしやパズル等の遊具品のほか、箸や箸置き、調理ベラ等の台所用品、さらには風呂スノコや石けん箱等の風呂用品等の材料として広く利用されている。
(5) また、ヒバに含まれるヒノキチオールは、顕著な抗菌作用があり、これが木材の耐朽性や耐蟻性、耐湿性として注目をあびている。
 台湾ヒノキや米スギなどにも含まれているが、その量はヒバに比べて少量である。
 最近はヒノキチオールを含んだヒバ油を利用した入浴剤や石けん、食品の鮮度を保つ保鮮紙、化粧品などの商品が開発されているほか、ヒバのまな板は病原性大腸菌(O−157)に対する効果があると言われている。